「くすりの正しい使い方」啓発資材の作成について
1.本啓発資材の作成意図
本資材は、薬剤師が医薬品の適正使用について、小学生および中学生・高校生・一般向 けに啓発講義する際に利用するものとして作成した。本資材の範囲には、医薬品の周辺事 情なども含めている。
2.背景
近年、我が国では、高齢社会の本格化につれて、国民の健康志向は著しく高くなってい る。また、現代は、IT化の進展等により、健康や医薬品はもとより、多くの事柄に関す る情報が大量に提供され、誰でもが利用できるようになっている。
しかし、その一方で、このような氾濫する情報を、国民一人一人がきちんと取捨選択し 評価し、自身の健康の維持・増進に役立てているかと言えば、疑問も否めない。医薬品に 関して言えば、乱用や誤用の問題、あるいは各種調査が示すように医薬品を適正に服用し ない患者さんが結構いるといった現実が見られるからである。
このような状況の中、平成18年に薬事法が改正され、行政庁が関係機関・団体の協力 のもと、医薬品等の適正使用に関する啓発と知識の普及に努めるとの規定が導入された(第 77条の3の2)。医薬品適正使用に対する国の積極的な姿勢が伺えよう。
医薬品等の適正な使用に関する普及啓発 (薬事法 第77条の3の2) 国、都道府県、保健所を設置する市及び特別区は、関係機関及び関係団体の協 力の下に、医薬品及び医療機器の適正な使用に関する啓発及び知識の普及に努め るものとする。 |
また、この規定を実効あるものとすべく、参議院厚生労働委員会において次のような附 帯決議がなされている。
薬事法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(抜粋)
平成18年4月18日
参議院厚生労働委員会 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。 六.新たな一般用医薬品の販売制度について、十分な周知を図るとともに、医薬品 を使用する消費者が医薬品の特性等を十分に理解し、適正に使用することができ るよう知識の普及や啓発のための施策の充実を図ること。また、学校教育におい ても、医薬品の適正使用に関する知識の普及や啓発に努めること。 |
このような経緯があり、国は平成19年度に医薬品適正使用啓発推進事業を行うことと し、(社)日本薬剤師会に本事業の検討・実施を委託した。
3.周辺状況
文部科学省では、国の教育課程の基準全体の見直しを行い、平成20年3月28日付で 新たな中学校学習指導要領等を告示した。それによると、中学校第3学年の保健体育科・ 保健分野において、医薬品についての指導を充実する観点から、『医薬品は正しく使用す ること』の文言が明記されている。既に高等学校においては医薬品に関する学習が行われ ているものの、新たに中学校課程においても上記のような記載がなされ、医薬品に関する 学習が必須化されたことは、画期的な改訂として評価できよう。この新たな中学校学習指 導要領は、平成24年4月1日より全面施行される。
4.医薬品適正使用啓発資材の作成
医薬品の専門家であり、地域保健・医療の担い手である薬剤師の役割は、医薬品の適正使用の確保を通して、患者・住民の安全・安心を守ることにある。さらに、医薬品の適正使用啓発活動を推進することも、調剤等の日常業務と同様に重要な役割と考える。
この啓発活動に関しては、これまで述べてきた経緯からもわかるように、これからの薬剤師活動として取り組むべき事柄である。特に、小学生を含む学校教育の段階から一般までの啓発活動を体系的に行えば、社会問題化している薬物乱用の防止はもとより、生涯に亘って適正に医薬品を使う上でも、大きな効果が期待できる。
(社)日本薬剤師会では、平成19年度厚生労働省補助金を受け『医薬品適正使用啓発推進事業』を立ち上げ、薬剤師が医薬品適正使用啓発講義を行う際の側面支援として、啓発資材を作成した。その際、くすりの適正使用協議会の多大な協力をいただいた。本事業で作成した啓発資材には、「小学生向け」と「中学・高校・一般向け」の二種類がある。
5.本啓発資材の利用法
@本啓発資材は、CD-ROM版(パワーポイント2003)で作製している。
(CD-ROM版が手元にない場合は、日本薬剤師会のホームページにも同じものを掲載して いるので、ご利用いただきたい。)
ACD-ROMには、約130枚の講義用スライドが挿入されているので、講義の時間や生徒の学年に応じ、適宜スライドを選択して利用する。また、各講師の手持ちスライドを追加・差し替えしても差し支えない。
B小学校用スライドには、漢字使用の基準として小学校5年完了時までに学習した漢字を使 用しているが、併せてルビを振っているので、5年生以下にも使用可能である。
C各スライドのノート欄には、参考として「講義例」を記載している。但し、あくまでも例 であり、そのとおりに講義する必要はない。各講師の経験や事例、追加・差し替えスライ ド等の実状に応じ、適宜変更して差し支えない。
(講義例では、生徒に身近な「風邪」および「風邪薬」を事例に用いているが、例えば高齢者が講義対象者の場合には、高齢者に多い疾患とそれに関連する医薬品を事例に用いれば、講義がより身近なものになると考えられる。)
Dまた、挿入されているスライド全てを説明する必要もない。特に学校においては、授業時 間に制約があることから、時間内に終了するよう、またあまり多くの内容を一度に詰め込 み過ぎないよう、配慮する。
E学校の教室で講義を行う場合、暗幕等がないため、スライドの使用に適さないケースが想 定されたり、また、学校によっては、プロジェクターが無いこと等も考えられる。そのよ うな場合には、当日の講義で使用するスライドをプリントして生徒に配付する等の方法に より対応する。
(スライドの使用が可能な場合でも、ポイントとなるスライドをプリントして配付すれば、 より効果的と考えられる。)
F講義に当たっては、講師側からの一方的な説明だけでなく、「なぜだろう?」という問い かけを挟んだり、簡単な実験を行ったり、実物を見せる等の方法も活用し、講義に変化を 持たせることが望ましい。その結果、子ども達の考える力が養われ、強く印象にも残るの で、理解もより進むと考えられる。
6.授業構成例
前述のとおり、新たな中学校学習指導要領は平成24年4月1日より全面施行される。 その際、医薬品に関する授業は、一般的には各学校の養護教諭等が担うものと思料される が、平成20年1月17日に公表された中央教育審議会の答申「子どもの心身の健康を守 り、安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について」で は、学校薬剤師の役割の一つとして『医薬品は、医師や薬剤師の指導の下、自ら服用する ものであることから、医薬品に関する適切な知識を持つことは重要な課題であり、学校薬 剤師がこのような点について更なる貢献をすることが期待されている。』と明記されてい る。
すなわち、学校薬剤師は、養護教諭等と連携のもと、各学校での医薬品に関する授業等 にも積極的に協力・貢献していくことが望まれている。そこで、最後に、養護教諭等と学 校薬剤師が連携した「授業構成例」を紹介し、参考に供したい。
「くすりの正しい使い方」授業構成例@ (教員、薬剤師による授業)
1.対象学年:小学校5・6年生
2.本時のねらい:@病気、けがの発生とその防御について考える。 【関心・意欲】
A薬の役割、効果と副作用等について学び、正しい服用方法を理解する。 【知識・理解】
B健康3原則を理解する。 【知識・理解】
C病気や薬の専門家としての薬剤師の役割を認識する。 【思考・判断】
3.学習過程(45分)
課程 |
時間 |
指導内容 |
学習活動 |
教師の支援(○教員、*薬剤師) |
教材等 |
導 入 |
2分 |
健康な体 |
1.健康な毎日を過ごすために |
スライド等 |
|
健康な生活を過ごすために大切なことを考える。 |
○健康3原則について教える。 |
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3分 |
けが・病気と自然治癒力 |
2.病気かなと思うときは? |
スライド等 |
||
保健室、病院へ行ったときを考える。 |
○症状と対処方法について聞く。 |
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3.けがや病気を放っておくと? |
スライド等 |
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薬なしで治った経験を思い出す。 |
○自然治癒力、免疫力について話しそれらの重要さを教える。 |
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2分 |
薬の役割 |
4.薬は何のためにある? |
スライド等 |
||
薬を服用したときの変化を思い出す。 |
○薬の役割は「健康な状態に戻すこと」であることを教える。 |
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展 開 |
5分 |
薬の効き方 |
5.薬はどのようにして、効いてほしい場所(患部)まで届く? |
スライド 模型等 |
|
栄養素と対比して薬のたびを考える。 |
○薬は血液とともに体中を巡ることを教える。 *血中濃度の考えを理解させる。 |
||||
6.薬を使うときの約束は? |
|||||
体験から、どんな約束があるか考える。 |
*用法、用量の重要性を説明する。 |
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7分 |
薬の種類 |
7.薬の種類にはどんなものがある? |
スライド 見本等 |
||
自分が今までに使ったことのある薬の種類を挙げる。 |
*種類と使い方などについて教える。 |
||||
8.どうしていろいろな種類がある? |
スライド 模型 実験材料等 |
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錠剤やカプセル剤になっている理由を考える。 |
*錠剤、カプセル剤の構造とその理由を説明する。 実験:カプセル味見実験 |
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12分 |
薬を飲むときの注意 |
9.薬を飲むときに注意することは? |
スライド 実験材料等 |
||
飲む時間や飲み忘れたときの体験を思い出す。 |
*薬の効き方を復習しながら、注意事項を理解させる。 |
||||
10.薬を水以外の飲み物で飲んだことがある? |
|||||
水、お茶、コーラなどで飲んだ経験、水なしで飲んだ経験などを思い出す。 |
*薬を水、ぬるま湯以外で飲んだときのトラブルを説明する。 実験:@お茶と薬の飲み合わせ Aカプセル吸着実験 |
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2分 |
薬の保管 |
11.薬はどこに保管されている? |
スライド等 |
||
薬がどこに保管されているか述べる。 |
*保管場所や保管するときの注意事項を教える。 |
||||
5分 |
薬の副作用 |
12.薬の副作用について知っていることは? |
スライド等 |
||
副作用について知っていることを述べる。 |
*副作用の種類、副作用が出たときの対応について教える。 |
||||
ま と め |
2分 |
薬の相談 |
13.薬について相談しよう。 |
スライド等 |
|
薬について分からないことは誰に聞いたらいいか考える。 |
○薬剤師が薬の専門家であることを教える。 *お薬手帳について説明する。 |
||||
5分 |
質問 |
薬剤師に質問する。 |
*質問に答える。 |
|
4.児童評価
@病気、けがの発生とその防御について考えることができたか。 【関心・意欲】
A薬の役割・効果・副作用などについて学び、正しい服用方法を理解できたか。 【知識・理解】
B健康3原則を理解できたか。 【知識・理解】
C病気や薬の専門家としての薬剤師の役割を認識できたか。 【思考・判断】
5.教員評価
@発達段階に合わせ、科学的に教えることができたか。
A児童が自分達に身近な学習であると捉えることができるように進められたか。
B児童の悩みや質問にできるだけ答え、不安を取り除くように配慮できたか。
「くすりの正しい使い方」授業構成例A (教員、薬剤師による授業)
1.対象学年:中学生
2.本時のねらい:@薬の役割について考える。 【関心・意欲】
A薬の種類、効果などについて学び、正しい服用方法を理解する。 【知識・理解】
B副作用を学び、対応方法を理解する。 【知識・理解】
C健康3原則や心の健康の重要性について理解する。 【知識・理解】
D病気や薬の専門家としての薬剤師の役割を認識する。 【思考・判断】
3.学習過程(45分)
課程 |
時間 |
指導内容 |
学習活動 |
教師の支援(○教員、*薬剤師) |
教材等 |
導 入 |
2分 |
健康な体 |
1.健康な毎日を過ごすために |
スライド等 |
|
健康な生活を過ごすために大切なことを考える。 |
○健康3原則、心の健康について教える。 |
||||
2分 |
薬とは |
2.薬とは何なのですか? |
スライド等 |
||
薬の使用目的などについて知っていることを発言(記述)する。 |
○&*:病気の治療、診断、予防を目的として使用されるものであることを理解させる。 |
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展 開 |
3分 |
薬の製造 |
3.薬ができるまで。 |
スライド等 |
|
薬を製造し、使用できるようになるまでの工程について考える。 |
○or*:薬の製造、試験、流通、販売の工程について概説する。 |
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5分 |
薬の効き方 |
4.薬はどのようにして、効いてほしい場所(患部)まで届く? |
スライド 模型等 |
||
栄養素と対比して薬のたびを考える。 |
○薬は血液とともに体中を巡ることを教える。 *血中濃度の考えを理解させる。 |
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5.薬を使うときの約束は? |
|||||
どんな約束があるか考える。 |
*用法、用量の重要性を説明する。 |
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7分 |
薬の種類 |
6.薬には、どのような種類があるのですか? |
スライド 見本等 |
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使用したことのある薬、見本、パネルなどから剤形を分類する。 |
○&*:種類と使い方などについて教える。 |
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7.どうしていろいろな種類がある? |
スライド 模型等 |
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散剤、錠剤、カプセル剤など、剤形の異なる理由を考える。 |
*錠剤、カプセル剤の構造とその理由を説明する。 |
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12分 |
薬を飲むときの注意 |
8.薬を飲むときに注意することは? |
スライド 実験材料等 |
||
飲む時間や飲み忘れたときの対処などについて、体験を思い出す。 |
*薬の効き方を復習しながら、注意事項を理解させる。 |
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9.薬を水以外の飲み物で飲んだことがある? |
|||||
水、お茶、コーラなどで飲んだ経験、水なしで飲んだ経験などを思い出す。 |
*薬を水、ぬるま湯以外で飲んだときのトラブルを説明する。 実験:@お茶と薬の飲み合わせ Aカプセル吸着実験 |
||||
2分 |
薬の保管 |
10.薬はどこに保管されている? |
スライド等 |
||
薬がどこに保管されているか述べる。 |
*保管場所や保管するときの注意事項を教える。 |
||||
5分 |
薬の副作用 |
11.副作用について知っていることは? |
スライド等 |
||
副作用について知っていることを述べる。 |
*副作用の種類、副作用が出たときの対応について教える。 |
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12.なぜ副作用が現れるのか? |
|||||
副作用の原因について考える。 |
*薬と飲食物の相互作用などを例示して説明する。 |
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ま と め |
2分 |
薬の相談 |
13.薬について相談しよう。 |
スライド等 |
|
薬について疑問が出たときの対応について考える。 |
○薬剤師が薬の専門家であることを教える。 *お薬手帳について説明する。 |
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5分 |
質問 |
薬剤師に質問する。 |
*質問に答える。 |
|
4.生徒評価
@薬の役割について考えることができたか。 【関心・意欲】
A薬の種類・効果・副作用などについて学び、正しい服用方法を理解できたか。 【知識・理解】
B体と心の健康の大切さを理解できたか。 【知識・理解】
C病気や薬の専門家としての薬剤師の役割を認識できたか。 【思考・判断】
5.教員評価
@発達段階に合わせ、科学的に教えることができたか。
A生徒が自分達に身近な学習であると捉えることができるように進められたか。
B生徒の悩みや質問にできるだけ答え、不安を取り除くように配慮できたか。
錠剤の模型例
カプセルの模型例
人体模型例
平成19年度 厚生労働省補助金事業
「医薬品適正使用啓発推進事業」検討会名簿
平成20年3月末日現在
加藤 哲太 東京薬科大学薬学部教授、薬学教育推進センター長
近藤 俊一 神奈川県保健福祉部薬務課長
澤田久美子 くすりの適正使用協議会コミュニケーション部会長
田中 俊昭 東京都学校薬剤師会会長
中村 雅美 日本経済新聞社編集委員
福山 哲 独立行政法人 国民生活センター
寺脇 康文 日本薬剤師会副会長
飯島 康典 日本薬剤師会常務理事
藤垣 哲彦 日本薬剤師会常務理事