ラジオ全国放送 薬学の時間 学薬アワー「ホウ酸ダンゴによるゴキブリ駆除」
ラジオNIKKEI 2010年9月30日放送 日立市学校薬剤師会会長 荒川充洋
講演要旨

不快害虫駆除(ゴキブリ)

日立市学校薬剤師会では、ゴキブリ駆除を教育委員会・学校・薬剤師会と三位一体となって行っている。現在19年間にわたって協力が続いている。これは全国大会でも高く評価された。平成16年に全国大会において発表した内容を載せたので参考にして欲しい。 発表PPT

行政との関わり


 日立市学校薬剤師会では、学校における不快害虫の駆除として、特に衛生上の害を及ぼすゴキブリについて駆除を行っている。今年で17年にわたり駆除をしているのでその報告をする。ゴキブリは脚や翅に付着している菌に腐敗細菌に属するものが多く、病原性のブドウ状球菌の存任も認められるので問題がある。


 



 ゴキブリは地球上の現われた歴史も古く、世界中に広く分布している。もともとは熱帯、亜熱帯に住む昆虫であるであるが、交通機関の発達、暖房設備の完備、食料が豊富になるなど生活環境がよくなり分布地域を広げたものである。その種類も3500種が知られている。多くは屋外の落ち葉中や朽木などで生活している。日本では約30種が知られているが、多くは屋外で生活している。
  生態や駆除法に関しては明治40年に佐々木忠次郎博士の「ちゃばねあぶらむし」(昆虫学雑誌)最初らしい。そのなかで、駆除法は数種あれども実地に試むる時に有効なるものははなはだ少しと記載されている。
  現在、日本で問題視されているものは、殆んどが野外生息種で屋内に侵入してきたもので、代表的なものは次の種類である。
  チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ヤマトゴキブリ、ワモンゴキブリ、コワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、イエゴキブリの7種類である。



 ゴキブリ駆除にあたっては、現状を把握しなければならない。事前調査として毎年5月から7月にかけてトラップによる捕獲をおこない、どのくらい生息しているかを調べた。

ゴキブリトラップによる生息調査

学校に依頼した生息調査の報告書である。↑


 ↑これは調査開始当時に使用した調査書である。記載のしかたがよくわからない様子だったので、前出の報告書にした。


 調査依頼をするときに添付する文書である。捕獲場所、室内温度の差には大きな違いが 出るために、諸注意を記載した。

 ゴキブリの種類
  日本では主にクロゴキブリ、チャバネゴキブリ、ヤマトゴキブリ、ワモンゴキブリなどが見られる。

 クロゴキブリ
    クロゴキブリは関東以南に分布する種類で、東京近辺の一般家屋内に普通に見られ、体長2530mmで濃い黒褐色のやや大型種で光沢がある。夏期には室内に飛来することもある。産卵の時期は5月下旬から10月で、1卵鞘より21頭前後がふ化し、10月中旬まで発育、10月中旬より翌年の4月下旬まで発育を中止、越冬する。
  衛生上の害は脚や翅に付着している菌に腐敗細菌に属するものが多く、病原性のブドウ状球菌の存任も認められるので問題がある。
  体内からはグラム陰佳の桿菌、経口伝染病の起因となるシゲラ属、食中毒の原因となるサルモネラ属、スタフイロコッカス属や大腸菌群が認められる。
 チャバネゴキブリ
    チャバネゴキブリは世界に広く分布し、日本全士に普通に見られる種類ですが、低温に弱く東北、北海道では暖房設備の完備した場所で活動している。又、東北、北海道以外でもホテル、病院、学校、飲食店、新幹線など列車、ビル、マンション等、暖房設備の整った場所に多い。
   成虫の体長は1013mmで他の種類にくらべて著しく小さく、体色も黄褐色で淡く、前胸背に2本の黒い縦条がある。
   成虫の生存期間は約100日前後で、雌がやや長い傾向がある。産卵回数は3回から5回。交尾後4日から6日で開始する。卵期間は28℃、75%の条件下で約20日間で、卵はふ化するまで成虫の尾端に付看している。幼虫期間は27℃〜30で約100日で、通常6回脱皮を行う。
  チャバネゴキブリはSteam flyとも呼ばれている。これは洗濯屋や病院の暖房器中のパイプに集まる性質があるためつけられた。

 ヤマトゴキブリ
    ヤマトゴキブリは日本在来種で、東北から関西にかけて分布し、特に関東以北に広く分布し、家屋内に生息する。また屋外でも生息が司能である。
  体長は25mm前後でクロゴキプリに似るがやや小さい。成虫の雌は翅が短く、雄は体が細く前胸背がデコボコしており、体・翅ともに光沢がないのでクロゴキブリとは区別が出来る。
  農家や一般住宅に多いが、屋外では薪の下や樹洞などでもしばしば見られる。
    4月初旬より11月中旬まで活動して越冬する。幼虫期間は262日から267日で、成虫の寿命は49日から102日である。
  生息適温は28℃以下で、25℃が適温と考えられる。産卵の時期は4月、5月、6月で5月が最も多く、ふ化率は4月が最も高いようである。産卵数は1雌あたり5個から16個で、1卵より13から15匹がふ化する。
 ワモンゴキブリ
    ワモンゴキブリはAmericana cockroachと呼ばれ、アメリカに多かったが今日では世界に広く分布している。日本では九州南部に士着していたが本州での確実な分布記録はない。今日では京都市内、大阪市内、横浜市内など大都市にしばしば発見され、駆除作業の対象となっている。体長は約3540mmで屋内生息種では最も大型である。体・翅の色は栗色で前胸背には環状の黄紋がある。
  産卵は暖かい時期には2日〜7日に1個、寒い時期には1週間〜2週間に1個の産卵といわれている。産卵された卵は19日〜88日でふ化するが、通常は38日〜49日である。
  幼虫期間は晋通の室温で約9ケ月から2年。なお成長の過程において6回〜7回脱皮して成虫になる。成虫の寿命は雌が3ケ月〜25ケ月、雄は6ケ月〜14ケ月である。食性は雑食性で、澱粉質、肉質のものを盛んに食するが毛織物や古皮革等も食害する。時には人の皮膚をかむこともあり、炭疽病菌、コレラ菌、チフス菌なども運搬伝染させることがあると言われる。
薬剤
 ゴキブリ駆除に使用される薬剤を簡単に述べる。
 ゴキブリに使用する薬剤は大きく2系統に分けられる。
 一つは、有機リン系薬剤。もう一つはピレスロイド系薬剤である。
 ピレスロイド系薬剤は隅に潜んでいるゴキブリを追い出すのに効果を発揮するのもある。フラッシング効果。
 最近、衛生害虫駆除のあり方として、IPM ( Integrated Pest Management 総合管理)が言われている。これは従来、害虫はこの地球上から撲滅するとの考え方であったが、害虫を許容水準以下(目に触れない程度)に減少させて、そのレベルを維持して管理することになる。
 今後、ネズミ、衛生害虫等の防除はIPM( 総合管理 )が主流となると思われる。
 2系統の薬剤の副作用と症状について触れておく。
 有機リン剤の作用機構は、皮膚や口から体内に入った薬剤がアセチルコリンを分解する酵素コリンエステラーゼを阻害することによる。中毒の治療薬はアトロピン剤やPAMの静注であるが特効薬ではない。
 ピレスロイド系殺虫剤(除虫菊)の中で、エトフェンプロックス(ETP)は人畜に非常に優しいが、魚介類にはさらに毒性が高いので、室内で使用する場合、水槽の熱帯魚などに気をつけなければならない。
 有機リン系やピレスロイド系の薬剤に比べ、ホウ酸は極端に毒性が低い。また団子を丸める方法ではなく、専用の容器に入れることによって誤食を防ぐことができる。
 また、ゴキブリは、8mmの隙間を好む習性があることから、容器にもゴキブリの好む隙間が開いておりホウ酸団子を食べやすい形状になっている。
安全性

 家庭で作るホウ酸団子は大きさも含量もまちまちであるが、調査では約1/3が1個当たりホウ酸10g以上含んでいた。(つくば中毒110番・石沢淳子)
 急性中毒
 1g未満の少量では消化器症状がすべてで比較的軽い。しかし小児で1g以上の摂取には慎重な対応が必要である。また新生児の場合はこれまでの知見からさらに毒性が強い可能性がある。
 治療
  特異的な解毒薬はない。経口摂取の場合は催吐、胃洗浄、活性炭・塩類下剤の投与の後に対症的に治療を行う。強制利尿、血液透析が有効とされる。
 ゴキブリに対する毒性 
 日本環境衛生センターの水谷氏によれば、ホウ酸の経口投与による致死は極めて遅効性で致死効力が安定するまで半月を要したが、忌避性がないためホウ酸を50%含んでいても、ちょっとした調合努力でゴキブリはよく摂食してくれるとある。摂食したゴキブリは脱水症状を起こし乾燥した状態で死ぬが、有機リン剤散布時のようなノックダウンした虫体が見つからない場合が多い。

ゴキブリ団子の製法




 ホウ酸団子は、このように20個単位で配布する。


 ゴキブリがどのようなものを好むのかと、マッシュルームを入れてみたりジャガイモを使ってみたり試行錯誤を繰り返した。結局、水っぽくなく適度なやわらかさが出るこの処方にしている。
 ただ、たまねぎの水分含有の差によって硬さにむらが出る。


 毎年、彼の調剤室を使わせてもらっている。翌日、たまねぎのにおいが抜けないと言っている。
  

  たまねぎを荒切りしてミキサーにかける。

 
 牛乳、砂糖を混入する

 
このようなペースト状にする。
別に強力粉をダマにならないようにふるいにかけておく。

材料と用具の一部
 漬物用のポリバケツでないと入りきれない。
 
ビニール手袋をしてホウ酸、強力粉、ペースト状のたまねぎ、牛乳、砂糖を手で混ぜる。
結構大変な作業である。混ぜ終えたら、ビニール袋に少量づつ秤量する。
 
ホウ酸団子を詰める容器である。 このように軟膏べらを使って詰める。

 ホウ酸団子20個セットを作るためのマニュアルである。一人で作るのは大変なので5〜6人に手分けして詰める。
 
ホウ酸団子20個を入れるチャック付ビニール袋。 セットの下に敷く厚手の紙。

 
完成するとこのようになる 。説明書と、結果報告書、返信用封筒を同封して紙袋につめ、学校名を記載する。

捕獲状況

 トラップによる捕獲調査によると、10月〜11月、7月〜8月と調査期間に差があり、明らかに秋と夏のゴキブリの活動状況が異なっているべきであるが、トラップによる捕獲にはあまり差がないように思われ、トラップでの捕獲には限度があるように考えられる。しかし捕獲場所、室内温度の差には大きな違いがある。
捕獲場所: 水道流し場の捕獲率が小・中学校、ともに一番の捕獲であった。
温度差:  ゴキブリの活動温度は25℃以上と言われる通り夏場25℃以上で高い捕獲率を示すが、冬場でもその時期の適温があるように思われ16〜17℃で捕獲率が高い。
教室:   調理室のような食物の残渣の出やすい教室がゴキブリの餌になるためか多い。また一般教室でも給食の残りをゴミ箱に捨てたり、掃除が行き届かない日当たりのよい教室はゴキブリの繁殖率が高い。
階数:   階数では1階より2階以上の方が日当たりが良いせいか多く捕獲されている。
   
ゴキブリは隅にそって走行する習性があるので、トラップはなるべく隅にかける。
この写真ではトラップが浮いているのでよくない。
 
流しの隅にたまった食べかす、ガス台にこぼした油、汁類はもとより、糞便や喀痰、動物や昆虫の死体までも食べる。さらに書籍類の表紙の糊までかじる。
 
ゴキブリは夜間活動性なので、明るい時には物陰にひそんでいる。
 また、群れをなして潜んでいることが多く、これは糞とともに出される集合フェロモンによるものである。この性質は若齢幼虫ほど強い。
データ




 最近の平成10年から平成16年までの日立市内小学校におけるゴキブリ捕獲数の合計をグラフにした。
 それぞれの学校の報告では、0匹の所が多数見られたが、報告書によりトラップを置く期間が短かったり、場所の選定が悪かったことが考えられる。また中には捕獲されても学校が不潔と思われてはいけないと0と報告した学校もあった。その学校に対しては調査の理解を求め正しいデータを求めた。
最近のデータだけではなく、長期にわたってのグラフも作成した。
 ゴキブリ調査を始めた当初からのグラフである。
データの表である。学校名は匿名とさせていただいた。
 10匹以上捕獲された所は色をつけた。
 ゴキブリ捕獲をはじめた昭和63年から数年は、捕獲数が多くなかなか減らなかった。

中学校においても、小学校のデータと同じで、さほど変わった様子はない。

幼稚園は平成5年より実施した。やはり小学校、中学校と同じデータとなった。

 小学校、中学校、幼稚園のそれぞれのデータの平均を出してグラフ化してみた。
3つのグラフともに最初多く平成4年を中心に低くなり平成12、13年にまた高くなっている。
 多少の誤差はあるものの、同じようなデータが出たので、ゴキブリの生態が気温と密接な関係があることから、気候との因果関係を調べてみた。

気候との関係

気象庁のデータをインターネットでダウンロードした。

 気象庁によると、2002 年の世界の年平均地上気温の平年差*は+0.54℃で、統計を開始した1880 年以降では1998 年に次いで2番目に高い値となっている。世界の年平均地上気温は、1980 年代中頃から依然として高い状態が続いてる。
 1990年・平成2年から2000年・平成12年の付近を注目していただきたい。
 次に日本のデータを示す。

 2002年の日本の年平均地上気温の平年差*は+0.53℃で、統計を開始した1898年以降では5番目に高い値となった。日本の年平均地上気温は、2番目に高い値を記録した1998年の後、1999〜2001年と3年連続して下がっていたが、2002年に再び高くなり、依然として1990年代はじめからの高い状態は続いている。
 これらの要因としては、二酸化炭素などの増加に伴う地球温暖化、数年〜数十年程度の時間規模で繰り返される自然変動などが考えられる。と気象庁では結論づけている。

考察

これらを踏まえ、ゴキブリ捕獲のヒントとなる考えを述べてみたい。

 先に提示した気象庁のグラフから1990年から2002年までの世界平均気温と日本平均気温をゴキブリ捕獲数のグラフと重ねてみた。
 気温が高くなれば、ゴキブリ捕獲数も高くなる。
 チャバネゴキブリの生態系では、卵から成虫になるまで27℃では約45日間、25℃で約60日、20℃で約220日程度かかる。温度によって増え方が違ってくる。

 設置場所
  水道流し場の捕獲率が小・中学校、ともに一番の捕獲であったことから、水道流し場にホウ酸団子を設置することを第一とする。
 調理室のような食物の残渣の出やすい教室。
 また一般教室でも給食の残りをゴミ箱に捨てたり、掃除が行き届かない日当たりのよい教室はゴキブリの繁殖率が高いことから、ゴミ箱の付近。
 設置時期
 ゴキブリの活動温度は25℃以上と言われる通り夏場25℃以上で高い捕獲率を示すが、冬場でもその時期の適温があるように思われ16〜17℃で捕獲率が高い。
 しかし、活動が活発になる夏場に向けて設置するのが望ましいと思われるが、冬場の方が野外から暖かい屋内に入り込むことが多くなるとも考えられるので一概に何時が良いか、今後の調査課題である。

 今回のトラップによる捕獲調査、ホウ酸ダンゴによる駆除を考え、今後設置場所、時期等の検討する必要がある。ホウ酸ダンゴの設置期間は5月と9月の年2回が望ましい。教室内は清掃に心がけ、ゴミ箱は掃除の時、水洗いし良く乾燥、流しの周りも良く洗浄し放課後は常に乾燥させ、なるべく排水口に栓をする。
  その他の報告で、ゴキブリは8mmの隙間を好むと言われる通り、木製の古い机のすき間に数十匹の幼虫が見つかった。
 また校庭の樹木の穴のあいた所に、やはり数十匹のゴキブリが巣を作っていた等の報告を受けており、巣となっている場所が見つかった場合には、速やかに薬剤散布等で根絶させ、あらたに教室内に侵入するのを防止するよう心がける。
 最近の教室は密閉され保温力があり、夜間は無人となるため、ゴキブリの良い住みかとなることを忘れてはならない。そして学校全体がゴキブリ絶滅に積極的に取り組むことが撲滅への第一条件となろう。
  尚、ホウ酸ダンゴ作製は今後改良することも考えている。また、世界的気候の変動とともにゴキブリ生息数が変動するので、ホウ酸団子の製作量も連動して考慮したい。
 先にも述べたが、今後不快害虫を撲滅を目的とするのではなく、IPM(総合管理)を考慮し、許容水準以下に減少させて、そのレベルを維持して管理することが望ましい。

平成16年11月19日
 学校環境衛生・薬事衛生研究協議会全国大会発表「不快害虫駆除・ホウ酸団子によるゴキブリ駆除」 発表 日立市学校薬剤師会 黒澤偲 立原慶親 石井友美 福地奉司 川又俊男 鈴木教以 ○大曽根清朗 荒川益美 阿内一彦 安部精一 荒川充洋 関根剛 世話人 斎藤謙一